中国をはじめアジア諸国を旅していて、色とりどりの屋台(露天商)に目を奪われてしまった――という経験をお持ちの方は少なくないだろう。多くの客を引き寄せるのは、まるで毎日がお祭りのようなあの活気だ。ところが、このような「屋台経済(露店経済)」は不潔だとして排除しようとしたのが習近平主席。ある人物に対する“嫉妬心”からとも言われるが、この習氏の判断は完全に誤りだったという。心理学者の富田隆・元駒沢女子大教授が詳しく解説する。(メルマガ『富田隆のお気楽心理学』より)
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中国が「屋台経済」めぐり二転三転
お隣の中国で「屋台経済」が再評価されているようです。
「屋台」は「露店」とも呼ばれ、かつての中国でよく見かけたような、街中に並んだ出店を指します。屋台は個人経営がほとんどですから、「零細企業」を中心にした経済活動一般を「屋台経済」と呼んでいるのです。
かつては中国の風物詩であり庶民の憩いの場であった屋台も、中国の経済成長と都市の近代化が進むに連れ、「過去の遺物」と敬遠されるようになり、この十数年、次第に姿を消していきました。
飲食屋台の不衛生さや、偽ブランド品の販売、税金逃れ等々、露天商の評判を落とす事案が続出したことも手伝って、政府との関係も悪くなり、その出店数は減少の一途をたどったのです。
しかしその後、2020年になると、新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、それまで好調だった中国経済は一転、不況に苦しめられることになりました。
国内消費の活性化を迫られた李克強首相は、雇用の創出や消費の活性化につながる「屋台経済」の有効性を説き、「屋台が中国を救う」と持ち上げたのです。
確かに、スタートアップが容易で、多様性と柔軟性に富む零細な経済活動は、中国経済の新たな成長モデルとなる可能性を持っていました。
中国人民の潜在的な逞しさを引き出すこうした試みは希望の光であり、広汎な人民の支持を得て国内消費を押し上げるはずでした。
習近平が一度は潰した「屋台経済」に再評価の兆し
ところが、これに反対し、強制的に屋台を立ち退かせるといった暴挙に出たのが、習近平主席でした。
彼は、「過去の遺物」である屋台や露店を嫌っていました。それに加えて、習近平主席は李克強首相の人気が高まることに危機感を抱いていたのです。
李克強氏は中国共産主義青年団(共青団)の出身で、しかも成績優秀、北京大学の経済学博士号を持つ超エリートで、部下や同僚にはもちろん、胡錦濤元総書記など長老からの信頼も篤い温厚な人物でした。人民の人気も集めていたのです。習近平主席が密かに嫉妬の炎を燃やしていたとしても不思議はありません。
そして、この習近平の歪んだ権力欲と度量の小ささが、その後の中国にとって、大きな災いとなります。
やがて、習近平主席は「独裁」政権を確立し、2023年10月、李克強氏は謎の死を遂げます。享年68歳でした。公表された死因は心臓発作ということになっていますが、多くの中国研究家は疑問を抱いています。今後、中共政権が終焉すれば、全ての暗部が明らかになるでしょう。
その後の中国経済の衰退はご存知の通りです。
中共政府の発表によればGDPは成長を続け、経済は安定成長を維持しているそうですが、そんなお伽噺を信じているのは、「日本経済新聞」や「朝日新聞」「NHK」くらいのものでしょう。
街には失業者が溢れ、大学を出ても職は無く、給与の不払いが続出し、企業は次々に倒産し、投資家の飛び降り自殺は後を絶たず、毎日どこかで暴動が起きています。
そんな状況で、米国はトランプ政権に替わり、それまで潜在的だった「米中冷戦」構造が露骨に顕在化し始めました。トランプ関税は、過度な輸出経済に依存した「世界の工場」の息の根を止めるための第一歩に過ぎません。
こうした状況で、「屋台経済」の再評価が始まったのです。(次ページに続く)
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